事件番号:JP2007-0010 裁 定 申立人: (名称) グッチオ グッチ ソチエタ ペル アツィオーニ (住所) イタリア共和国、50123 フィレンツェ、 ビア トルナヴォーニ 73/ロッソ 代理人:弁護士 松尾 眞 同 兼松 由理子 同 森口 倫 同 杉本 亘雄 同 石川 由佳子 同 竹村 朋子 登録者: (名称) gucci.jp (住所) 東京都町田市木曽町858-2 境川団地41-514 代理人:なし 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・ 提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「GUCCI.JP」の登録を申立人に移転せよ 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「GUCCI.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 A 申立人の主張 (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商 標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること ア 申立人の事業概要 申立人は、1921年にイタリア国フィレンツェにおいて設立された皮革製 品の製造・販売業とする会社を原点とするイタリア国法人であり、設立後、各 時代を代表する著名人が愛顧するなどにより、「GUCCI」(グッチ)のブ ランドは、皮革製品・高級婦人服・時計・アクセサリー等の幅の広い分野で高 い信用が形成され、日本における第1号直営店が設立された1972年頃には、 すでに世界的に周知著名となっていた。なお、申立人の製品は、2001年6 月1日に設立された株式会社グッチグループジャパンを通じて、日本国内にお いて販売展開されている。 イ 申立人の登録商標 申立人は、古くは、1969年(昭和44年)11月29日に「被服、布製 身回品、寝具」を指定商品とする登録商標をはじめとして、「gucci」、「GU CCI」、「グッチ」等の文字等からなる多数の登録商標を有している(甲1 の1~甲2の83)。 ウ 本件ドメイン名 登録者は、「GUCCI.JP」なるドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。) を、2006年(平成18年)7月4日に登録している。なお、本件ドメイン 名は、ドメインの売買仲介等を行う「sedo」(Search Engine for Domain Offer の略称)の運営するドメインパーキングサービスに預けている(甲3)。 エ 申立人の使用する商標権の著名性 申立人が使用する「GUCCI」ブランドの直営店舗は、2006年末時点 で、世界45カ国、219店舗であり、日本では49店舗にのぼっており、国 内の中規模・大規模都市の一流百貨店の殆どに出店している。また、多数の ファッション雑誌への広告をしており、複数の英和辞典への登録の事実もあり、 2006年度の売上げは全世界で約3,151億5,000万円、このうち日本 国内の売上げは約19%となっている(甲4)。 したがって、「GUCCI」を含む申立人の使用する登録商標は、日本国内はもと より全世界において周知著名である。 (2) 本件ドメイン名と申立人が使用する商標権の同一性 本件ドメイン名のうち、「.JP」の部分は、国別コードを表す部分に過ぎな いので、出所表示機能を果たす部分は「GUCCI」の部分であることは明らかであ り、「GUCCI」を含む申立人の使用する登録商標と同一である。 (3)登録者の本件ドメイン名に関する権利や正当な利益を有していないこと ア 登録者が本件ドメイン名を登録した2006年7月4日時点におい て、申立人が株式会社グッチグループジャパン以外の第三者に申立人の登録商 標の使用許諾をしたことはなく、また本件各登録商標は世界的に周知・著名で あるため、登録者が本件各商標を知らなかったということはありえず、登録者 は、「GUCCI」の商標権を有しないにもかかわらず、あえて本件ドメイン名の登 録をしたものである。 イ 登録者は、本件ドメイン名を登録以後全く使用しておらず、今後使 用する準備をしている様子もうかがえない。なお、本件ドメイン名に関わるU RL「http://gucci.jp」によれば、そのポータルサイトに「ドメインgucci.jp は売り出し中です!」「このページはセドのドメインパーキングプログラムに よってドメインオーナーに無料で提供されたものです。」等の記載があり、ま た、ポータルサイトからリンク先へのクリック数に応じて収入を得ることがで きるようになっているので、申立人の登録商標の著名性及び顧客吸引力を利用 して不当に収入を得ようとしている(甲9~甲15)。 したがって、本件ドメイン名に関する権利または正当な利益を有しないこと を十分に認識しているはずである。 (4) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されてい ること 登録者は、上記のとおり「sedo」を利用して売買が成立するまでの間、申立 人の有する登録商標の周知著名性を利用してポータルサイトにスポンサーリス トを登録することによりインターネットユーザーを誘引してクリック数に応じ た収入を得ようとしていること、申立人の使用する登録商標を独占している申 立人又は株式会社グッチグループジャパンへの売却ないし転売により不当な利 益を得ようとしていること、等から、不正の目的で登録又は使用させているこ とは疑いない事実である。 (5)よって、申立人は、本件ドメイン名の登録を申立人に移転せよとの裁 定を求める。 B 登録者の答弁 登録者は答弁書を提出しなかった。 5 争点および事実認定 A 登録者の答弁書不提出の効果 (1) 本件において登録者は、JPドメイン名紛争処理方針のための手続 規則(以下、「手続規則」という。)第2条に基づいて申立書が送付されたに もかかわらず、答弁書提出期限までに答弁書を提出しなかった(別記「手続の 経緯」参照)。 (2) 答弁書が提出されなかった場合、手続規則によれば、パネルは例外 的な事情がない限り申立書に基づいて裁定を下すものとするとされている(第 5条(f))が、本手続には弁論主義は適用されず、パネルは登録者が答弁書を 提出しないという事実により申立人の主張事実等について擬制自白があったも のとすることはできず、JPドメイン紛争処理方針(以下、「処理方針」とい う。)および手続規則の定める要件が充足されているか否かの判断を申立人の 陳述、提出した証拠等に基づいてしなければならないというべきである(手続 規則第14条(b)・処理方針第4条a等)。 (3) 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっ ている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された 陳述及び文書の結果に基づき、方針、規則、及び適用されうる関係法規の規定、 原則ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」 処理方針第4条a.は、申立人が次の事項の各々を証明しなければならない ことを指図している。 ① 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標 その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること ② 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有して いないこと ③ 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されている こと B 処理方針第4条aの各号についての当パネルの判断 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標 その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似しているか否か 申立人は、多数の登録商標を有している(甲1の1~甲2の83)。ただし、 登録商標の表示態様には、大文字のローマ字を「GUCCI」と横書してなるもの(こ の字体は、雑誌や新聞広告等でも使われている。甲6の1~甲7)、小文字の ローマ字を「gucci」と横書してなるが右端の「i」が右から左に延長され下線 模様を形成しているもの、他の文字や紋章的な図形と組み合わされたもの、等 がある。したがって、申立人は、これらの各登録商標について正当な権利及び 利益を有する。 一方、本件ドメイン名は「GUCCI.JP」であり、このうち「JP」の部分はトッ プレベルドメインであって国別コードの日本を意味し、使用主体が属する国を 表示するものであるに過ぎないから、本件ドメイン名において、主たる識別 力を有する要部は、セカンドレベルドメインである大文字のローマ字からなる 「GUCCI」の部分にあると認められる。 そこで、登録者の本件ドメイン名の要部「GUCCI」と、申立人の登録商標のう ち「GUCCI」(たとえば、商標登録第2472177号。甲1の48,甲2の4 8)と比較すると、称呼・外観において同一である。 よって、本件ドメイン名は、申立人の上記登録商標の周知性著名性を考慮す るまでもなく、全体として同一か少なくとも誤認混同を生ずるほど類似すると 認められる。 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有して いないか否か 申立人には、権利または正当な利益を有する登録商標を所有している事実 はすでに認定したとおりである。これに対し、本件ドメイン名に関係する権利・ 利益の有無は登録者において立証容易な事項であるが、本要件について、登録 者は、答弁書を提出せずこれを主張立証しない。 そして、申立人が株式会社グッチグループジャパン以外の第三者に申立人の 登録商標の使用許諾をした事実や何らかの取引関係にある事実は認めらない。 また、登録者は、本件ドメイン名の登録を受けた以後、営業等に使用してい る事実や今後使用する準備をしている事実を推認させる証拠もない。かえって、 本件ドメイン名にかかわるURL「http://gucci.jp」(大文字の「GUCCI.JP」 ではないが、甲10の「DETAILS:」の部分には大文字で説明されており、甲1 5の10枚目等からも登録者のサイトであると認められる。)によれば、その ポータルサイトに「ドメインgucci.jpは売り出し中です!」「このページはセ ドのドメインパーキングプログラムによってドメインオーナーに無料で提供さ れたものです。」等の記載があり、また、ポータルサイトに登録されているス ポンサーリストへのクリック数に応じて収入を得ることができるようになって いると推認される(甲9~甲15)。 よって、登録者が権利または正当な権利を有していないと認めることができ る。 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されている か否か 申立人が所有する登録商標の数や保持期間、申立人が使用する「GUCCI」 ブランドの直営店舗の数、平成18年度の売上高が全世界で約3,151億5, 000万円(このうち日本国内の売上げは約19%)となっている事実(甲4) 等から、登録者が本件ドメイン名を登録した2006年7月4日時点において、 申立人の本件各商標が周知著名であったことが認められる。そうすると、登録 者は、申立人の商標の存在を認識し、かつ、本件ドメイン名を使用すれば本件 各商標との誤認混同が生じることを認識しながら登録を受けたものであると推 認することができる。 また、上記のとおり、登録者の「GUCCI」を使用しているポータルサイトの記 載内容や機能からすれば、申立人の周知著名なブランドを利用して、本件ドメ イン名の販売等をして利益を得るなり、ポータルサイトからのクリック数に応 じて収入を得ようとしていること、も容易に推認でき、これらに反する証拠は ない。 よって、本件ドメイン名は不正の目的で登録され使用されているものと認め られる。 6 結 論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録された本件ドメ イン名「GUCCI.JP」が申立人の商標と全体として同一か少なくとも混同を引き 起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有し ておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録されかつ使用されているも のと認定する。 よって、処理方針第4条i.に従って、紛争処理パネルは、ドメイン名 「GUCCI.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。 2008年2月29日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 小 松 陽一郎 (単独パネリスト) 別記(手続の経過) (1) 申立受領日 電子メール 2007年12月26日 書面 2007年12月26日(来所) (2) 適式性 日本知的財産仲裁センターは、申立書が社団法人日本ネットワークインフォ メーションセンター(JPNIC)のJPドメイン名紛争処理方針(方針)、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(規則)、JPドメイン名紛争処 理方針のための補則(補則)の形式要件を充足することを確認した。 申立人はセンターに対して2007年12月26日に規定料金を支払った。 (3) 手続開始日 2007年12月28日 (4) ドメイン名及び登録者の確認日 センターの照会日(電子メール) 2007年12月26日 JPRSの確認日及び確認内容(電子メール) 1) 2007年12月26日 2) 申立書に記載の登録者はguuci.jpである。 3) 登録担当者は今井智和である。 (5) 登録者・登録担当者への通知日及び内容 1) 2007年12月28日 2) 登録者への申立書、申立通知書発送 (郵送・FAX・電子メール) 申立人への手続開始日の通知書発送(郵送・FAX・電子メール) JPRS・JPNICへの手続開始日の通知(電子メール) 3) 答弁書提出期限 2008年2月1日 (6) 答弁書の提出の有無及び提出日 登録者は答弁書を提出しなかった。 (7) 答弁書不提出通知書の登録者への送付日 2008年2月4日 (8) パネリストの選任 単独 パネリストの氏名 小松 陽一郎 (9) 紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日 2008年2月8日 (10)宣言書の受領日 2008年2月13日 (11)パネリストから申立人への陳述・書面の追加要請日 2008年2月26日 (12)申立人からの陳述・書面の追加書類受領日 2008年2月27日 (13)予定裁定日 2008年2月29日